千葉大みらい医療基金

組織常在性記憶T細胞の鉄代謝による分子制御メカニズムの解析

気管支喘息の新しい治療開発を目指して

気管支喘息は小児から高齢者まで幅広い年齢層で発症しうる気道の慢性炎症疾患で、本邦では約100万人と多くの方が罹患しています。喘息では、気道が炎症によって狭くなり、息切れや「ゼーゼー、ヒューヒュー」といった喘鳴が生じます。喘息患者さんは、症状が落ち着いていても、気道に持続的な炎症が生じているため、時に、強い息切れを呈する喘息発作を起こし、命を落としてしまう場合もあります。
昨今、吸入ステロイド薬をはじめとした治療薬の進歩に伴い、喘息による死亡者数は減少しているものの、一部の患者さんは薬剤治療の効果が乏しく、現在でも年間約1000人の死亡例が報告されています。特に高齢者では有症率、死亡率ともに高く、超高齢社会に突入した本邦では喘息治療のさらなる進歩が重要な課題であるといえます。

免疫記憶について

ウイルスや細菌などの病原体や、がん細胞、花粉などのアレルゲンといった、体内の異物(抗原)を排除する仕組みを「免疫」といいます。ワクチンに代表されるよう、一度反応した抗原に対し、再び出会った際に、迅速かつ強力な免疫応答を可能にするための仕組みが「免疫記憶」です。異物が体内に侵入すると、司令塔役のT 細胞がその抗原を認識し、様々な免疫細胞と協力して、異物を除去します。そして、一部のT細胞は、異物が除去されたあとも、記憶T 細胞として体内に長期間存在します。例えばワクチン接種により記憶T 細胞が誘導されると、その感染症にかかりづらくなったり、重症度が軽減されたりします。このように、免疫記憶は、感染症に対する防御という点では、生体に有利に働きますが、アレルギーや自己免疫疾患においては、その病態形成に関与していると言われています。

記憶型病原性Th2細胞と気管支喘息

T細胞はいくつかの種類があり、認識する抗原により、働くT細胞の種類が異なります。私達はこれまでアレルギーに関与する「Th2細胞」と、その「免疫記憶」に着目して研究を進めてきました。私達はこれまで、Th 2細胞の中でも、体内を循環せず、特定の組織にとどまる、組織常在性記憶型病原性Th 2 細胞(Tpath 2)が、炎症を促進するサイトカインを多量に産生し、アレルギー性気道炎症の病態に深く関与していることを明らかにしました。しかしながら、同細胞がどのように誘導され、組織に長期間留まるのか、そのメカニズムについては不明点が多くあります。そこで、私たちは蛍光タンパク質を分泌し続けるTh2細胞を作成し、アレルギー性慢性気道炎症時、肺組織内でTh2細胞と相互作用する可能性がある細胞群を標識し、それらの細胞群の1細胞レベルでの網羅的な遺伝子学的解析を行いました。その結果、鉄輸送タンパクとして知られるトランスフェリンが、組織常在性記憶T 細胞の維持に関与している可能性があることを発見しました。
鉄は生物に必須な微量元素であり、生体内では細胞内の鉄の量を一定に制御する仕組みがあります。また、炎症が生じた際には、生体内の鉄動態は急激に変化し、多様な細胞に影響を及ぼすことが知られていますが、免疫記憶に関連することはこれまで知られていませんでした。

本研究では、組織常在性記憶T細胞の鉄代謝による分子制御メカニズムを明らかにすることを目指しています。本研究成果が、免疫記憶に関する洞察を深め、最終的に難治性アレルギー性疾患の新規治療薬開発に向けて活用されることを願っています。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「免疫発生学」とご指定ください。

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