千葉大みらい医療基金

肺癌腫瘍環境の免疫応答理解に基づくがん免疫療法の開発

我々の免疫による攻撃を逃れるがん

私たちの体はがん細胞を排除するために免疫系ががんを攻撃しますが、その働きから逃れる術をがんは持っています。例えばがんを攻撃するT細胞という免疫細胞がありますが、T細胞の働きを抑制するCTLA-4やPD-1といった免疫チェックポイント分子があり、がんはこの分子を活用してT 細胞の攻撃を回避するわけですが、現在これらの分子に対する阻害薬を用いたがん免疫療法の有効性が示され、肺癌を始めとして多くのがんで標準治療の地位を確立しています。

新しい肺癌治療の確立に向けて

肺癌はがんによる死亡原因の1位を占める予後不良な疾患であり、特に遠隔転移といったがん細胞が最初に発生した場所から、血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器や器官に移動した進行期の治療成績は極めて困難であるのが実情です。しかし上記の免疫チェックポイント阻害剤の開発成功などにより、徐々に生存期間は改善しつつあります。一方、免疫チェックポイント分子阻害薬が無効な症例も数多く存在することも確かなことで、詳細な作用メカニズムの解明が求められています。

がんとリンパ節

我々の体にはリンパ管が張り巡らせられ、体の各所のリンパ節という免疫器官を経由します。リンパ節は、細菌、ウイルス、がん細胞などがないかをチェックし、免疫機能を発動する「関所」のような役割を持ちます。近年、がんがある臓器の所属リンパ節における免疫チェックポイント分子阻害作用が、その有効性発揮に重要であることがマウスモデルで報告されましたが、ヒト肺癌患者の所属リンパ節に注目した解析は、これまでほとんど行われてきませんでした。そこで本研究では、肺癌患者さんに対して手術時に採取した所属リンパ節を中心として、腫瘍組織や末梢血を用いて、免疫学的特徴を明らかにすることで、免疫チェックポイント阻害剤の有効性や予後予測に貢献する新規バイオマーカーを探索・同定することを目的としました。本研究により、肺癌における癌局所の免疫環境の変化を捉え、免疫療法の有効性発揮メカニズムを詳細に明らかにすることが出来れば、肺癌の予後を改善する新規バイオマーカーの発見や新薬の創出につながる可能性が期待できます。

がんに対する免疫反応は人の免疫機構とがん細胞側の相互作用からなり、免疫チェックポイント阻害剤の効果予測因子についてもこれら両面から検討する必要があります。免疫環境には個人差が大きく、同じ内容の治療を行っても個人間で異なる反応を示すことが多くあります。この違いを比較し、免疫療法の有効性発揮に至る詳細な作用機序を解明するためには、がんに罹患している患者さんの生体内での腫瘍細胞と免疫細胞のステータスを比較することが、最善の手段です。リンパ節転移と密接に関わる分子が特定できれば、術後に転移再発を起こす確率や、免疫チェックポイント阻害薬に対する反応性を予測することができ、将来的には新たな免疫療法開発につながると考えられます。免疫系の研究には大きな研究費が必要なことが多く、うまくいくこともあれば、いかないこともあります。そのような中、皆様からご寄付を頂戴できたことに深く感謝申し上げます。少しでも多くの患者さんを救うため、一同使命感を持って研究を続けます。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「免疫細胞医学」とご指定ください。

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