千葉大みらい医療基金

染色体外DNAに着目したHPV関連中咽頭癌の発癌分子機構の解明と新規治療戦略の構築

がんの未知の発癌分子機構の解明に向けて

がんは本邦で生涯に半数が罹患し、1/3の死因となる疾患であるものの、依然として未知の発癌分子機構が存在し、発癌分子機構の解明と新規治療戦略の構築は喫緊の課題です。近年その新たな発癌分子機構の一端を担う存在として「染色体外DNA(ecDNA)」が注目を集めています。ecDNAは1965年に発見されましたが、近年の医学の発展によりその存在が再注目されました。ecDNAは染色体から離れて存在するDNAで、がん化を促進する遺伝子(がん遺伝子)を持ち、がんの増殖を助けている可能性があると考えられています。ecDNAおよび関連タンパク質との複合体(クロマチン)の構造は、その転写効率を高め、1つの細胞内に多くのコピーが含まれるようになります。そのため、がん遺伝子が急速に増幅され、腫瘍の進化が促進されることになります。DNAのすべての情報を集約したものを「ゲノム」と呼びますが、ゲノムには生命の設計図がコードされています。私たちは、このゲノム情報を正確に複製し、ゲノムに傷ができた際には傷を正確に修復する機構をもっています。このようなゲノム安定性維持機構のおかげで、ゲノムは変化しないように厳密に維持されていますが、がん細胞ではゲノム安定性維持機構が破綻し、多種多様なゲノム変化が起きます。ecDNAがまさにこのがん遺伝子のコピー数増加の一翼を担っており、その機構を解明することは極めて重要であるといえます。

HPV関連中咽頭癌について

がんの12-20%にはウイルスが関与しており、その中でもヒトパピローマウイルス(HPV)が関与するHPV関連中咽頭癌の疾患頻度は増加の一途を辿っています。HPVは非常にありふれたウイルスです。皮膚や粘膜の小さな傷口から感染します。感染しても、ほとんどの場合は免疫の力で自然に排除されますが、時にウイルスが感染した状態が持続すると、がんを発症することがあります。HPVが引き起こすのは女性の子宮頸がん、外陰がん、膣がん、男性の陰茎がん、そして男女共通の中咽頭がん、肛門がんなどです。そして、この中咽頭がんの患者が急増しており、問題になっています。中咽頭は、口の奥の上にある柔らかいところ「軟なん口こう蓋がい」、舌の付け根「舌ぜっ根こん」、横の壁のリンパ球が集まる「口こう蓋がい扁へん桃とう」を含む部分です。ここにできるのが中咽頭がんで、のどの違和感、長く続くのどの痛み、飲み込みにくさにより著しく生活の質が低下し、死に至るために早急な発見と治療が必要です。

HPV関連中咽頭癌の新規治療戦略の開発

近年私たちはこのHPV関連中咽頭癌においてecDNAの解析を行い、HPVゲノムがecDNAに組み込まれたhuman-viralhybrid ecDNA( hybrid ecDNA)というウイルス融合型のecDNAを初めて同定しました。このhybrid ecDNAはHPV関連中咽頭癌のおよそ20-30%程度に存在するものの、hybrid ecDNAがどのように発癌に関与するのかは未だ明らかではありません。そこで、本研究では、hybrid ecDNA を介した発癌分子機構を解明すると共に、hybrid ecDNAを標的とした新規治療戦略の構築を目的とします。本研究により多くの方の治療と安心のお役に立てるよう、引き続き研究に邁進致します。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「健康疾患オミクスセンター」とご指定ください。

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