千葉大みらい医療基金

気道上皮細胞のエピジェネティック変化を標的とした新規気道炎症制御療法の確立

気管支喘息の新たな治療開発を目指して

気管支喘息(以下、喘息)は、人口の約6%が罹患する最も有病率の高いアレルギー性呼吸器疾患です。喘息の治療は、吸入ステロイドに加え、新たな抗体医薬により大きく進歩し、長期的な治療の選択肢は増えました。しかし、長期的に症状を管理できている人でも、いわゆる風邪等の気道感染症をきっかけに喘息の症状が急に悪化することがあります。
また、喘息はインフルエンザウイルスや肺炎球菌などの気道感染症にかかったり、悪化するリスク因子とも言われています。この喘息と気道感染症の悪影響を与え合っている相互増悪機構は抜本的な対策を考えていかなくてはならないことであり、喘息と気道感染症の相互増悪機構を標的とした新たな治療戦略を創出することが必須であると考えられます。

気道上皮細胞のエピジェネティック変化に着目

我々の気道には気道上皮細胞という細胞が存在し、体内と体外を隔てる物理的なバリアとして機能するだけでなく、ウイルス感染を最初に感知して、生体防御応答を誘導する役割を担っています。喘息患者さんの気道上皮細胞は、健常人と比較するとウイルスを排除しようとする免疫応答が遅いことが報告されていました。一方、最近の研究により、皮膚を再生する役割を担う皮膚上皮幹細胞が過去の炎症を記憶し組織損傷に対する反応性を変化させることや、鼻粘膜基底細胞がIL-4/IL-13というアレルギーに関連する受容体からの刺激を、遺伝子機能を調節する機構(エピジェネティック変化)を介して記憶することが明らかになりました。
これらの背景より、私たちは、アレルギー性気道炎症に起因する気道上皮細胞のエピジェネティック変化がその後の気道炎症の強度に影響するという仮説を立て予備実験を行いましたが、その仮説を立証する結果が得られております。

エピジェネティック変化とは

私たちの組織を形作る細胞はDNAという設計図に従って作られています。細胞がどのような組織に変化するかは、DNA中の遺伝子がどの順番で使われるかによって決まります。必要な遺伝子を活動させ、不必要な遺伝子を停止させる、この大規模なプロセスをエピジェネティクスと呼びます。これは、DNAの配列自体は変えずに細胞が分裂した後も遺伝子の活動を制御・維持するスイッチのような仕組みです。しかし、このメカニズムは後から変わることがあり、これをエピジェネティック変化といいます。例えば、トウモロコシの色素が温度や日照時間によって変わることは、ストレスによって制御されるエピジェネティックな遺伝現象の一例です。人においても、環境や病気によって遺伝子の配列は変わらなくても、DNAスイッチのオン/オフの制御機構の変化、つまりエピジェネティックな変化が生じることが分かっており、疾患のメカニズム解明では非常に重要であり、研究をする意義があると言えます。

皆様へ

本研究は、慢性アレルギー性気道炎症に起因する気道上皮細胞の炎症記憶の分子機構を解析し、気道炎症重症化の抑制戦略の基礎を築くとともに、気道上皮細胞の炎症記憶への介入による新規気道炎症制御法の開発基盤を構築することを目的としています。遺伝子機構の解析には莫大な研究費が必要で、時間がかかります。一方で喘息やインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症など、気道炎症が生じる患者さんは非常に多く、新たな治療戦略を早急に検討する必要があります。今回皆様から賜りましたご寄付を活用し、1日でも早く、新たな治療をお届けできるよう一同頑張ります。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「アレルギー・臨床免疫学」とご指定ください。

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