千葉大みらい医療基金

敗血症における腸内細菌叢と血中代謝産物のクロストーク解明による腸管恒常性の制御

敗血症とは

敗血症は、細菌などの病原微生物に感染、繁殖し、組織や臓器を障害した状態をいいます。治療が遅れると、全身のバランスが崩れ、低血圧による意識障害などを引き起こしてショック状態となります。その結果、多数の臓器に障害が及ぶ「多臓器不全」となります。多臓器不全になると、数時間で死亡してしまう可能性が高くなります。敗血症の原因となる感染症は、「肺炎」や「尿路感染症」が多く、そのほかに「腸管感染症」や「血流感染症」などがあります。直接敗血症を治す薬はなく、抗菌薬などの感染の制御と人工呼吸、透析などの人工補助療法による全身管理が治療の中心です。

腸内環境と血中代謝産物が敗血症に与える影響

近年のゲノム解析技術によって腸内フローラと一般に呼ばれる腸内細菌叢を調べることが可能となりました。その結果、感染をきっかけにしてdysbiosisと呼ばれる細菌叢のバランスが崩れ異常をきたした状態が生じ、pathobiome(病原性微生物)の増加が起こっていることが明らかとなりました。これらの腸内細菌叢の変化は、バクテリアルトランスロケーションと呼ばれる腸内に生息する細菌が腸管上皮を通過して腸管以外の臓器に移行する現象により敗血症による臓器障害の進行につながることがわかっています。最新の研究結果からも、腸内細菌叢由来の代謝産物の一部が腸管から吸収されて全身に移行することで、動脈硬化や腎障害、精神疾患などの病態の進行に関与していることが注目されています。一方で、血中代謝産物の変化が腸内細菌叢の動態を反映するという報告もあり、血中代謝産物と腸内細菌叢由来の代謝物の間には相互に影響し合うクロストークが存在する可能性がありますが、まだ詳細は分かっていません。

腸内フローラを整えることで敗血症の進行を防げるか

この研究は、敗血症患者の腸内細菌叢と血中代謝物の活動を解析することによって、両者のクロストークが治療予後に及ぼす影響を明らかにすることを目的としております。血中代謝物と腸内細菌叢の間に深い関係性を見出すことができれば、特定の腸内細菌叢の環境改善に働きかけるプロバイオティクス療法や栄養療法の開発が期待されます。国内外で高い死亡率や遷延する臓器障害が問題となっている敗血症の病態では腸内細菌叢のバランスが乱れるdysbiosisが起こり、多臓器不全の進行に影響を与えている可能性があります。私たちの研究室では、既に敗血症患者の便検体を調べたところ、非敗血症患者と比較して細菌叢を構成する菌種が大きく変化し、敗血症の患者はdysbiosisが進みやすいことを見出しました。腸内細菌叢は様々な代謝物を産生しており、免疫担当細胞への作用を介して腸管内の炎症抑制や腸管恒常性の維持に貢献しています。特異的な分子を網羅的に解析する研究において、炎症性腸疾患の患者ではdysbiosisの進行によって便中の「短鎖脂肪酸濃度」が低下し、便中代謝物の変化が病態の悪化に関与している可能性が報告されています。

敗血症の新しい治療のために

私たちは敗血症患者の便検体を用いて生体にとって有益な短鎖脂肪酸の濃度測定を行い、非敗血症患者に比べて酪酸濃度と酢酸濃度の有意な低下があることを明らかにしました。敗血症の病態でも腸内細菌叢由来の代謝物の一部が血中に移行することによって、全身の代謝動態への影響を通して治療予後に影響を与えているのではないかという仮説を着想し、その相互作用を調べております。これまで敗血症は根本的な治療がなかったのですが、本研究により今後の敗血症治療に新しい選択肢を提案できる可能性があります。敗血症はどんな人でも起こる可能性があり、ちょっとした感染で生じる人もいます。誰もがなる可能性がある疾患であり、今後の新たな治療を開発することは、多くの人の命を救うことになると確信しています。心温めるご支援を賜りましたことを心より感謝申し上げます。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「救急集中治療医学」とご指定ください。

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