千葉大みらい医療基金

世界初のアプローチによる慢性活動性EBウイルス感染症のメカニズム解明

EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)とは

EBウイルスは、最初に発見されたヒトがんウイルスの第1号ですが、ほとんどの人が感染するごくありふれたヘルペスウイルスの一種です。多くの人は子供の頃に親の唾液を介して感染して軽い風邪の症状を呈しますが、治ってもウイルスは体内に残り続けます。ヒトの白血球の一種であるリンパ球には、B細胞、T細胞、NK細胞の3種類がありますが、EBウイルスはB細胞に初感染し、体内から排除されることなく、生涯にわたってB細胞に潜伏感染します。ヒトには免疫力が備わっているため、EBウイルスに感染したB細胞が再び直接病気を起こすことは基本的にはありません。

慢性活動性EBウイルス感染症とは

極めてまれに、EBウイルスがB細胞ではなく、T細胞やNK細胞に感染します。この感染細胞がクローナリティをもって増殖・組織浸潤し、発熱、倦怠感、リンパ節腫脹、肝腫大、皮疹などの多彩な臨床症状を惹起することがあります。これが慢性活動性EBウイルス感染症です。本疾患は、単なる感染症ではなく、リンパ増殖性疾患と位置付けられています。根本的な治療をしない限り再燃を繰り返し、血球貪食性リンパ組織球症や悪性リンパ腫、白血病の発症により、数年以内に半数以上の人が、人が死に至る悪性疾患です。造血幹細胞移植が根治を期待できる唯一の治療法ですが、全ての人に行える治療ではありません。ありふれたEBウイルスが、どのように一部の人でT細胞・NK細胞に感染し、活性化・増殖するのかは現在十分には分かっていません。メカニズムの解明と抜本的な治療法開発が望まれています。

EBウィルスのヒトへの感染と病気

EBウイルスによる発癌性エピゲノム変化を胃癌で発見!

私たちの身体はたくさんの細胞から成り立っていますが、基本的にどの細胞にも全く同じゲノムDNAが入っています。例えば筋肉、神経、皮膚など見た目も機能も全く異なりますが、中にある遺伝子は共通で、筋肉の細胞も皮膚に関するDNAをもっています。しかし、筋肉の細胞を作るうえで皮膚に関する遺伝子など不要な遺伝子が働くことで害を及ぼさないように、遺伝子の使い分け(遺伝子のON/OFF)がなされます。この使い分けをしているのが、エピゲノムです。私たちは、EBウイルス感染が本来使われていないヘテロクロマチンと呼ばれる領域を使えるようにしてしまう作用があることを世界で初めて発見しました。この領域には、エンハンサーと呼ばれる遺伝子を活性化するスイッチが存在し、増殖に関連する遺伝子の発現を通常以上に活性化し、癌細胞の異常な増殖を引き起こしていました。私たちはこの現象をエンハンサー侵襲と名付けました。この発見は胃癌において発見したものですが、他の臓器でもEBウイルス感染によって生じる疾患であれば、同様のエピゲノム異常が起きている可能性が考えられます。今回悪性疾患である慢性活動性EBウイルス感染症において、EBウイルス感染がなぜT細胞やNK細胞の異常増殖を誘導するのかを明らかにするために、新たに研究を開始致しました。

今後の展望

EBウイルス感染によるエピゲノム、遺伝子制御異常のメカニズムが明らかになることで、慢性活動性EBウイルス感染症だけではなく、EBウイルス関連疾患全体の抜本的治療を見据えた創薬開発につながる可能性があります。この度賜りましたご寄付を活用し、病院スタッフと連携することで、新たな治療法につながる基礎医学研究を展開していきたいと思っております。何卒よろしくお願い申し上げます。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「分子腫瘍学」とご指定ください。

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