千葉大みらい医療基金

臓器特異性から解き明かす心臓血管内皮細胞特有の分子機構と動脈硬化反応

動脈硬化と心筋梗塞

全身に栄養分や酸素を行き渡らせる血管の最も内側を覆う一層の細胞を血管内皮細胞と呼びます。エネルギー源としての脂質や細胞・ホルモンの構成要素であるコレステロールはこの血管内皮細胞を通過して取り込まれますが、酸化したり、炎症細胞に取り込まれたコレステロールが内膜の下へ蓄積した状態が動脈硬化であり、その部分をプラークと呼びます。動脈硬化プラークが形成される原因としては脂質代謝異常・糖尿病・高血圧、肥満(メタボリックシンドローム)をきたす生活習慣の悪化などがそのいずれかあるいは複数重複することによって起こると考えられています。心臓の冠動脈に動脈硬化がおこり、血管の高度な狭窄や血栓などが詰まって血流が止まり、その先の心臓の筋肉に酸素が供給できなくなって、心筋が壊死してしまうのが心筋梗塞です。最新の医学を用いても回復に至らないケースもあり、それは冠動脈の先にある細動脈、毛細血管などの血管のネットワークの「微小循環の機能不全」によるとされていますが、実際にどんな特徴が重要なのかこれまでよく分かっていませんでした。そこで、私たちは心臓血管内皮細胞の分子学的特徴を調べることが、この疾患の治療につながると考え、研究を開始しました。

血管内皮細胞の役割

血管内皮細胞は、我々の全身をめぐる血管の最も深い部分にある細胞で、血管の健康状態を維持するのに非常に重要な役割を果たしています。血管内皮細胞は一酸化窒素(NO)やエンドセリンなど数多くの血管作動性物質(血管に働きかける因子)を放出しており、血管壁の収縮・弛緩(血管の硬さ・やわらかさ)をはじめとして、血管壁への炎症細胞の接着、血管透過性、凝固等の調節などを行っています。この機能は、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満など、様々な生活習慣病によりその機能が低下します。血管内皮機能が低下した状態が続けば、動脈硬化の進展を引き起こします。しかし、この動脈硬化の初期段階である血管内皮機能の低下は可逆的であることから、この血管内皮機能の低下した状態を早期に発見し、さらにはその機能を高める介入をすることができれば、動脈硬化の予防につながると考えられます。

血管内皮細胞は出生後早期に心臓特異性が激変!

これまでの私たちの研究で、出生後早期に血管内皮細胞の心臓特異性が激変することが分かりました。また、その機能を制御する4つの転写因子を発見しました。この転写因子群の働きを知ることが、心臓の血管内皮細胞だけが有している心臓機能を維持する働きの解明につながります。将来的には傷害後の血管新生促進、心臓機能回復に寄与する新しい治療の開発を目指しています。

今後の展望

現在、私たちが発見した4つの転写因子が、どのような組み合わせで働くことで、どのように心臓に働きかけるのかを調べています。また、動脈硬化を引き起こす肥満状態で、心臓血管内皮細胞で何が特異的に起きているのかを調べ、心臓血管内皮細胞の分子変化を調べます。これにより、心筋梗塞、心筋虚血などの疾患の新たな治療開発ができるよう、臨床応用につなげていきたいと考えております。
日常診療を行う中で直面する疑問や新たな治療法を考えるアイデアから、医学研究の第一歩は始まりますが、その遂行には多額の資金が必要となるのが現実的に直面する課題です。本事業にご寄付された資金をいただくにあたり、その還元として少しでも将来の医学に役立てられる知見をもたらすことを使命として改めて責任を感じる次第です。温かいご支援・ご協力に心より感謝申し上げます。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「分子病態解析学」とご指定ください。

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