千葉大みらい医療基金

関節炎を記憶するヘルパーT細胞の同定

病態の解明と根本治療薬開発のために

関節リウマチは、慢性の破壊性関節炎です。関節が痛んだり腫れたり変形をしていくのが主な症状で、治療していない期間が長ければ長いほど関節が壊れてしまい、著しく機能を損なうため、手術が必要になることもあります。昔は治療薬がなく、発症すると10年で寝たきりになると言われていましたが、現在は症状を抑える薬が盛んに開発されているため以前よりは進行は緩やかになっております。しかし、根本治療薬は残念ながらありません。私たちはまだ不明点が多いこの病気の原因について、「免疫記憶」という観点から研究を行い、根本治療薬の開発を目指していきたいと考えております。

免疫記憶について

今回の研究の概要をご説明する上で、まず免疫の機能の特徴である「免疫記憶」についてご説明致します。免疫とは体の生命現象の一つで、外部から入ってきたものを自分のものなのか、自分のものではないのかを見比べてチェックする機能を持ちます。ウィルスなど、自分のものではないものが入ってきたときに体がすぐに反応し、ウィルスを攻撃するのは免疫による働きです。しかし、免疫は残念ながら初めて出会ったものに対しては強く反応できません。それを克服するために人類が作ったものが「ワクチン」です。毒性を抑えたウイルスやウイルスに似たものを安全な方法で接種し、免疫を1回活性化させておくことで、本当にウイルスが体内へ入ってきた時に、「もうこのウイルスは知っているからすぐに排除可能です」と予習済みにしておくことができます。つまり、免疫は物を記憶する機能が備わっているといえます。水疱瘡、麻疹など、一度かかった病気にはしばらく罹らないのはこのためです。大事な点はこの仕組みは外部から入ってきたウイルスだけでなく、「体の内部の異常によって起きている病気にも同じことが起こる」ということです。1度、リウマチによる関節炎を起こすと、症状が落ち着いても何かの拍子にまた同じ場所で関節炎が発症することとなります。

今考えられている原因

関節リウマチの原因は残念ながらまだ分かっていないことが多いのですが、自己免疫疾患という、自分の免疫が自分の細胞を攻撃することによって生じていると考えられています。免疫の司令塔は「T細胞」という細胞です。T細胞はいくつか種類がありますが、免疫応答を促進するT細胞と抑制するT細胞のバランスが崩れることで発症し、免疫応答が過剰に活性化して自分を攻撃していると考えられています。このバランスを元に戻すことができれば根本治療薬の開発にもつながるかもしれません。

症状が落ち着いているときこそ原因解明の鍵!

関節炎が1回良くなっても、また同じ場所に炎症が生じることが多くあり、そこに免疫記憶が関係しているのではないかと考えています。つまり、治療によって症状が落ち着いているときも、そこには病気を記憶している免疫細胞(T細胞)が残っているために、何らかの刺激によって、病気を記憶しているT細胞が再度活発に動き出し、関節炎が再発するのではないかと考えております。

これまでは、「今関節に炎症が起きている!そこで何が起きているのだろう?」という視点が主流でしたが、「症状が良い時こそ原因を知る鍵がある」とにらんでの研究は世界的にも先駆的です。症状が落ち着いていると思われる患者さんの関節のサンプルを頂き、「そこにいる細胞はどんな細胞なのか」ということを調べていきます。

どうやって悪さをしている免疫細胞の働きを知るのか

Single-cell RNA-seqという最新の技術で細胞1つ1つを調べていきます。炎症が起きているときのT細胞はその多くが活性化しているのですが、恐らく、炎症が治っているときにそれでもなお活発に動いているT細胞が犯人です。その正体を突き止めることができると、恐らくそこに自己抗原(体の異常で自ら作り出してしまった異物)がまだそこいるから存在し続けている、でも、活性化していないために他のT細胞が集まっていないのだろうと解釈できます。

この研究が目指す2つの根本治療戦略

炎症を記憶するT細胞にだけ存在する分子が見つかれば、それに対する抗体製剤を使うと、関節に潜んでいる関節炎を記憶している細胞を死滅させることができて、最終的に根治を目指すことが可能です。しかし、その分子はそう簡単には見つからない可能性もあります。そこで、私たちは遺伝子工学を活用した新しい治療方法を検討しています。Single-cell RNA-seqで攻撃をしているT細胞の受容体情報がわかれば、遺伝子工学を使って、免疫応答を抑制するためのT細胞を操作することで、自分の中にある抗原を見つけた瞬間攻撃するのではなく免疫反応を抑えようと働きかけるようにできるのではないかと推測しています。そのT細胞受容体はまだ分からないので、今回の研究で発見していきたいと思っております。

日常の診療で

診療していて思うのは、「根治は難しいけれど、治療の選択肢はいくつもあるから粘り強く頑張りましょうね」と話すのですが、ほとんど全ての人は「不治の病にかかった」と落胆されるので、我々としても辛い思いがあります。今回の研究成果によって「治療は大変だけど、完治ができるかもしれない」といえる未来を目指しております。症状を抑える方法を模索するのではなく、“完治の可能性を示す”そういう研究をしたいと思っております。この度はご支援を賜り本当にありがとうございました。1日も早く良い報告ができるよう頑張ります。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「アレルギー・膠原病内科」とご指定ください。

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