千葉大みらい医療基金

災害治療学研究の推進

来る未曽有の災害に備えた災害治療研究の推進

地球温暖化を背景に台風の巨大化と激増が懸念されています。こうした中、令和元年(2019年)秋に台風15号、19号による暴風雨や、発達した低気圧に伴う豪雨が千葉県を襲い、社会インフラを人々の健康に甚大な被害をもたらしました。そして、長期化・慢性化する健康被害にいまだ多くの住民が苦しんでいる状況です。私たちは、将来必ず直面する災害惨禍に備えるべく、「災害治療学」を推進し、千葉大学の医学・薬学・看護学をはじめとする研究基盤と、真菌医学研究センターや治療学AI研究センターなどの特色ある研究の強みを結集し、地域社会における災害治療に関する最先端の研究を推進致します。

登場キャラクター

  • 千葉教授
  • みらい
  • りょうすけ

災害治療学とは

「災害治療学」という言葉はもとより災害治療という言葉も普段聞きなれないことと思います。
ちょうど医学部生の「みらい」と「りょうすけ」が災害治療研究について「千葉教授」に聞いているようです。会話をのぞいてみましょう。

りょうすけ

医学部で災害治療学研究をすると聞いたんですが、災害治療とは地震とか台風とかに関する治療でしょうか?
研究をする必要がそもそもあるのでしょうか?

みらい

うん、確かに緊急事態に災害派遣チームが骨折とか出血のような救急外傷の応急処置をしたり、避難所へ搬送したり、そんなイメージだな~。研究をするより現場の体制を強化した方がいいのではないでしょうか?人をもっと増やすとか・・・

2015年 関東の豪雨による防波堤決壊現場

千葉教授

そうだよね。それもその通り!ただ、災害治療って急性期だけではないんだ。例えば急性期を過ぎた避難所の生活を想像してみて。普段温かいベッドで寝ていた人が体育館で固い布団で雑魚寝。寒いし知らない人ばかり。赤ちゃんの泣き声が聞こえたり、子ども達が走り回ったり、風邪を引いたお年寄りが隣で咳をしていたり・・・考えただけでも色々な病気にかかりそうだよね。

2007年 中越沖地震避難所の生活の様子
自衛隊による仮説風呂
みらい

確かに・・・色々ありそうですね。災害時ってどのような病気の治療をするんでしょうか?

千葉教授

例えば急性期はみらいさんが言ったようにケガの対応や、元々の持病が悪化しないように医療資源を確保するとか避難所への搬送等をすることが多く、非常に重要な局面なのである程度の流れが既に構築されているんだ。でも、発災から1カ月以上過ぎた慢性期になると、慢性期特有の病気が出てくるんだ。

りょうすけ

それって、避難所生活が続いたりすることで起きる病気ということでしょうか?

千葉教授

そのとおり。復旧が進んで日常生活に戻る人もいる中、取り残される人もいる。取り残される人は高齢の人、手足が不自由な人、元々の病気がある人とかに多いんだ。そういった人達に災害によって起きる病気の治療方法は正直まだよくわかっていないし、地域の医療福祉的問題として任せられてしまうこともあって、具体的な方策がないんだ。

みらい

でも、被災したにせよ病気は病気ですし、一般的な治療を受けるだけなじゃダメなのでしょうか?

千葉教授

もちろんそういった通常の治療も大事なんだけど、災害という環境によってそれが更に悪化することがあるんだ。環境悪化、生活の変化によって起こるホルモン障害、免疫低下、その結果真菌症や感染症にかかりやすくなったりストレス関連疾患になったり持病が悪化したり・・・災害時の身体のメカニズムはまだまだ研究が必要なんだ。災害時に適した薬や治療法が選択できれば、慢性期の治療もきっとうまくいくはずなんだ。災害と言うとどうしても急性期のイメージがあって慢性期になるとメディアの報道も減ってしまうから、災害慢性期の医療はまだまだ未開拓なんだよね。

みらい

全国で唯一?!すごいですね。千葉大にそんな施設があるなんて!!日常に戻った後の病気の予防や治療法が分かるといいですね。

千葉教授

それだけじゃないよ。国内唯一の治療学人工知能(AI)研究センターという施設もあるんだ。人工知能を活かして、人工衛星や気象レーダーからのデータ、ドローンや建物センサーからの被害情報などを瞬時に解析して個人にあった避難情報を提供したり、遠隔地から診療をしたりするシステムを開発しようと考えているんだ。

みらい

すご~い・・・今は人工知能でそんなことまでできるんですね。先生のおかげで災害治療学の研究のことが少し分かりました!でもなんだか、すごく・・・お金がかかりそうな・・・

千葉教授

そのとおり・・・災害治療学の研究を進めるためには施設や人材が必要で、研究をしていくための研究費も必要・・・課題は山積みさ。少しでも日本の未来を一緒に考えてくれるような人の協力が必要なんだ。みんなからいただいた寄付は必ず将来の日本の役に立つ。頑張るよ。

みらい
りょうすけ

私たちもしっかり勉強します!

台風特有の健康被害と新たな災害治療研究の必要性

災害治療と聞くと一般的には「急性期医療」に重きを置かれ、実際に皆様も急性期のイメージ、D-MATの出動等を想像する方が多いかもしれませんが、それと同じくらい重要なのが移行期(数週~数カ月)と慢性期(数カ月~年)の医療です。移行期には生活環境が悪化し、ホルモン障害やストレス障害が起き、慢性期になると免疫低下による真菌症、感染症、元々の持病の悪化(糖尿病や高血圧、慢性腰痛等)が起きますが、それは災害によって起きているにもかかわらず、現状は標準的な治療を行うしかなく、適切な医療を提供できているかどうかの評価がなされていません。今後災害治療研究と、それに資する人材育成が急務であると考えます。

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