千葉大みらい医療基金

寄付をする

免疫疾患患者の全エクソーム配列解析から着想を得た
新規自己免疫疾患治療薬の開発

助成金の用途

遺伝性重症免疫疾患の患者さんの網羅的な遺伝子配列解析から着想を得て樹立された新しい全身性エリテマトーデス自然発症モデルマウスの研究と、スーパーコンピューターを用いて見出した新しい自己免疫疾患治療候補薬の研究に使用します。

研究概要

生命の設計図、DNAから免疫の難病の原因を解き明かし、新しい治療薬を開発する旅への招待

1. 遺伝子ってなに?

DNAは生命の設計図と呼ばれ、私たちの体で働くタンパク質を作る際に重要な役割を果たします。この設計図に異常があると、タンパク質が適切に作られず、病気を引き起こします。これが遺伝性疾患です。設計図は親から子へ受け継がれ、これが体質として病気のなりやすさを決めることがあります。

2. 免疫系と自己免疫について

免疫系は私たちの体へ侵入しようとするウィルスや細菌などの病原体から体を守る大切な仕組みですが、実は“諸刃の剣”であると言われています。免疫系は正常に働く限りは病気を引き起こす微生物を排除して感染から身を守りますが、それと同時に、免疫系が不適切に過剰に反応してしまうと私たち自身の体を傷つけてしまいます。これが“自己免疫疾患”と呼ばれる疾患で、関節リウマチが代表的な自己免疫疾です。この場合、不適切な免疫の過剰反応が関節を攻撃し、破壊してしまいます。

3. 全身性エリテマトーデスという難病

自己免疫疾患の中には全身性エリテマトーデスと呼ばれる自己免疫疾患があり、文字通り、腎臓、脳、肺、皮膚、関節など全身を冒しうる原因不明の病気です。不思議なことに若い女性が患うことが多い病気です。昔は腎臓の障害により命を落とす不知の病でしたが、治療の進歩により最近はこの病気で命を落とすことは少なくなりました。しかし生涯にわたり副作用が強いステロイド薬や強く免疫を抑える薬が必要であったり、妊娠や出産の時にリスクが高くなったりするなど、まだまだ治療が難しい病気で、難病指定されています。何より1番の問題点は、この不思議な病気がどうして起こるのか、その原因がわからないことです。それではどのようにこの病気の原因を調べたら良いのでしょうか?

4. マウスと使った研究とヒトを対象とした研究の違い

免疫の病気の研究はこれまで主にマウスを使用して行われてきました。この方法はとても有用でした。この方法では生命の設計図である遺伝子の特定の部分を破壊して、その遺伝子が働かなくなったマウス(ノックアウトマウスと言います)にどのような変化が見られるかを調べることで病気のメカニズムを研究してきました。しかし、免疫の研究においてはこの方法に欠点があることもわかってきました。一つの理由が、ヒトとマウスの免疫系は似ているけれども違う部分も多いということがわかってきたからです。もう一つは、免疫系は住んでいる場所の微生物の影響を受けることが多く、私たちのようにいろいろな微生物に囲まれて日常生活を送っている場合と、細菌が入り込まないように作られている実験室で飼育されたマウスではだいぶ免疫系やその異常である免疫疾患の発症メカニズムが異なるとわかってきたからです。みなさんにとってはあたりまえなことかも知れせんが、やはりヒトの免疫の病気の研究はヒトをよく調べなければいけないと再認識されてきたのです。

5. 全身性エリテマトーデス患者さんの遺伝子解析からわかったこと

そこで私たちは、全身性エリテマトーデスの原因を調べて新しい治療法を開発するために、ヒトを対象として、その患者さんの生命の設計図である遺伝子(DNA)を調べることを思いつきました。まずは千葉大学病院で、生後まもない時期から全身性エリテマトーデスになってしまった患者さんを見つけて、そのご家族のご協力も得て、生命の設計図であるDNAを調べました。最近の技術の進歩により、一人の患者さんの遺伝子を全て調べることができるようになったことがこの研究の追い風となりました。調べた結果、私たちは、ウィルス感染を防ぐのに重要な役割を果たす免疫分子であるToll-like receptor 7 (TLR7)という分子の設計図(遺伝子)に、1文字だけ異常を患者さんに見つけたのです。 それではこのTLR7とは何でしょうか?このTLR7遺伝子の1文字だけの異常が、全身性エリテマトーデスを引き起こすのでしょうか?

6. TLR7ってなに?

TLR7はヒトとウィルスとの闘いにおいて第一線で活躍する分子です。この分子は私たちの細胞内に誰でも持っているタンパク質分子であり、ウィルスだけが持つ、特徴的なウィルス遺伝子の形(一本鎖RNA)を認識して、ウィルスとの闘いの火蓋を切ります。つまり、ウィルスの体内への侵入を、ウィルスがもっている遺伝子の形から直ちに峻別してその存在を感知し、さらに他の免疫系の仲間にウィルス侵入を知らせ、一致団結してウィルスと闘うために中心的な役割を果たす重要な分子です。このTLR7は私たちに馴染み深い、インフルエンザウィルスやコロナウィルスに対する免疫にも重要であることがわかっています。私たちは全身性エリテマトーデスの患者さんの全遺伝子(全設計図)から、その大事なTLR7分子の設計図に、健常人とのわずかな違いを見つけたのです。

7. 全身性エリテマトーデス患者さんのTLR7は健常人と何が違うのか?

それではこの設計図(遺伝子)のわずかな違いはTLR7の働きにどのような影響を与えるのでしょうか?また患者さんの全身性エリテマトーデスの発症に直接関連があるのでしょうか?まず驚くべきおことに、患者さんから発見された設計図の異常がある場所は、これまでに研究者があまり注目していなかった場所にありました。誰もその場所がTLR7の働きに重要だと考えていなかった場所です。そこで、実験室でTLR7の設計図(DNA)に患者さんと同じ異常(変異)を人為的に作り、その設計図を細胞内に届け、患者さんと同じ異常を持つTLR7分子を作り、働きを調べたところ、患者さんのTLR7は健常人のTLR7と比較して非常に強く働いてしまうことがわかりました。この実験にはTLR7研究の専門家である東京大学医科学研究所の三宅健介先生、柴田琢磨先生の協力も仰ぎました。これら結果から、私たちは患者さんのTLR7はウィルスなどに対して過剰な免疫反応を起こしてしまうことで、他の免疫系の仲間と共に本来なら守るべき自分の臓器に炎症を起こし、その結果、全身性エリテマトーデスになっているのではないかという仮説を立てました。

8. 新しい全身性エリテマトーデスモデルマウスである“VarMマウス”の誕生

この考えを確かめるために、私たちは国立遺伝学研究所の小出剛先生と協力して患者さんと同じTLR7遺伝子異常を持つマウス(ノックインマウス)を作りました。そしてこのマウスを飼育していると、驚くべきことに患者さんと同様に、大事な臓器に強い炎症を起こす全身性エリテマトーデスを自然に発症しました。私たちはTLR7遺伝子をマウスで人為的にわずかに書き換えただけで、全身性エリテマトーデスを引き起こしたのです。私たちはこの新しい全身性エリテマトーデスモデルマウスを、患者さんの遺伝子異常にちなんでVarMマウス(バームマウス)と名づけました。

9. 患者さんの遺伝子変異から着想を得た新しい治療薬開発への挑戦

このわずかなTLR7異常がどのようにしてTLR7を過剰に反応させるのか、詳細なメカニズムに関しても少しずつわかってきました。例えば、患者さんのTLR7は健常人のTLR7があまり反応しないようなごくわずかなウィルス由来RNAに対しても過敏に強く反応することがわかりました。しかしこれまでの研究で最も重要なことは、このわずかな設計図の違いがTLR7の機能を大きく変化させ、病気を引き起こすということです。さらにその設計図の異常がある場所はこれまであまり注目されていなかった場所です。設計図の異常がわかっていますので、最終製品であるTLR7のどの場所に異常があるかも当然、わかっています。そこで、その異常があるTLR7の場所、これまで大事だと思われていなかった場所にうまく当てはまる化合物を人為的にデザインして薬にすれば、TLR7の過剰な応答による過剰な免疫を抑える、つまり全身性エリテマトーデスの新しい治療薬を開発できるのではないかと考えました。私たちはこの考えを持って、「タンパク質の形から、狙った場所にあてはまる薬の候補を、計算機でシュミレーションすることにより同定」することができる薬学研究院理論創薬研究室の星野忠次先生を訪ねました。そしてスーパーコンピューター富岳を用いて、たくさんの化合物から、私たちが注目しているTLR7の場所にうまく結合する化合物を数ヶ月にわたる計算を経て、複数同定しました。今後はこの同定された化合物の中に、過剰なTLR7の働きを抑えて全身性エリテマトーデスの治療薬の候補となる化合物があるかを実験的に確かめる予定です。本基金からの助成金もその実験の費用に使用させていただきます。

10. さらなる旅への招待状

ここまでお読みいただきましてありがとうございます。生命の設計図、DNAから免疫の難病である全身性エリテマトーデスの原因を解き明かし、新しい全身性エリテマトーデスモデルマウスを作り、そこから着想を得た新しい治療薬を開発する旅路はいかがでしたでしょうか?この研究の趣旨に賛同し、私たちと共に免疫疾患で苦しむ患者さんにより良い治療を提供することを目指す旅の仲間を募集しております。研究には困難が多く、思った通りにいかないことも多々ありますが、夢のある楽しい旅です。皆様とともにこの旅の続きができますことを楽しみにしております。どうぞ本研究にご支援のほど何卒よろしくお願いいたします。

現治療の課題

全身性エリテマトーデスの現在の治療法は、ステロイド薬の内服と免疫抑制剤の使用です。ステロイド薬は骨が脆くなったり、病原体に感染しやすくなったり、血糖値や血圧を上げて動脈硬化を促進させたりする強い副作用があります。副作用の強さを考えると、私たちも積極的に好んで使用している薬剤ではないのですが、全身性エリテマトーデスによる臓器の障害は命にかかわりますので、使用せざるを得ない状況です。この研究は実際の全身性エリテマトーデスの患者さんの遺伝子を調べてわかったTLR7という分子の異常を狙ってデザインした新しい薬の候補を探す研究です。したがって、上記のようなステロイド薬に見られるような強い副作用はなく、より良い治療と考えています。

本研究によって切り開かれる医療の未来

この研究は実際の免疫難病患者さんの遺伝子を全て調べることにより、原因を見つけた研究です。免疫疾患に遺伝子の異常が関わっていることがあることを示した意義に加えて、患者さんの遺伝子異常と正常遺伝子の機能を比較することによって、正常な免疫系がどのようにして働くかについても重要な発見が得られております。水や空気と同じで、当たり前と考えている物(正常な遺伝子機能)は失われてみて初めてその重要性に気づく(重い病気になる)ということです。

免疫の病気の患者さんの全遺伝子を読み、原因を突き詰める試みは決して夢物語ではなく、現在私たちの研究室で実際に行われていることです。これまでに40家系以上の方の遺伝子を調べさせていただきました。

私たちの目標は、臨床応用と基礎応用の2つがあります。

  • 臨床的な目標として、現在は臨床研究として行われているこの試みを日々の臨床に実装し、遺伝子を調べることにより最適な治療方法を選択すること、またこの方法を保険適応とすること。
  • 基礎的な目標としては、免疫疾患患者さんの遺伝子を全て調べることにより、病気のメカニズムを解明し、新しい治療薬を開発すること。

この2つの目標に向けた取り組みはすでに開始しており、成果がでていることから、実現可能と考えています。

寄付者へのメッセージ

難病研究を寄付によって支えていただきありがとうございます。この研究は全身性エリテマトーデスなどの難治性免疫疾患の患者さんにご協力いただいたことにより成果が現れた研究です。寄付者の皆様のご厚意を免疫の難病患者さんに還元できるよう努力致します。引き続きご支援、ご指導のの程どうぞよろしくお願いいたします。

この研究を支援する方法

千葉大みらい医療基金では、寄付をする際に寄付金の活用先を任意の領域や研究に指定することができます。この研究をご支援頂けます場合は、「アレルギー臨床免疫学」とご指定ください。

ページの先頭へ