

研究遂行に必要な実験試薬、マウス、学会参加費、ならびに論文の英文校正費および投稿料に使用します。
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease: MASLD)は、日本を含む世界中で増加しており、成人の約30%が罹患しているとされる、最も一般的な慢性肝疾患です。2024年の報告では、日本におけるMASLDの有病率は、男性で30.3%、女性で16.1%と報告されています。MASLDの一部は、肝炎を伴うMASHへと進行し、さらに肝硬変や肝がんなどの重篤な病態を引き起こす可能性があります。2024年には、米国において甲状腺ホルモン受容体βアゴニストであるレスメチロムが、MASHの治療薬として初めて承認されました。しかし、レスメチロムの有効率は約30%にとどまることや、薬価が高価であることから、依然として多くの患者に対応できる新たな治療薬の開発が強く求められています。これまでMASHの原因として重要な役割を果たすのは、脂肪酸、コレステロール、セラミドなどの「生理活性脂質」であると想定されてきました。しかし、これらのうちどの脂質がMASHの発症において決定的な病因物質であるのかについては、十分には解明されていませんでした。コリン欠乏高脂肪食は、コリンを含まず、特定のアミノ酸組成と高脂肪を特徴とした食餌で、コリンは脂肪の代謝や肝臓の正常な機能に不可欠な栄養素であり、これを欠乏させることで肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や線維化を伴うMASH様の病態をマウスで再現することが知られています。本研究では、コリン欠乏高脂肪食負荷マウスモデルを解析対象に、同モデルがMASH の病態をきたす病因物質を同定し、MASHの新規治療法の創出することを目的としました。
コリン欠乏高脂肪食を投与したマウスにおいて、わずか5日間で肝臓の脂肪滴内にコレステロールが急速に蓄積し、同時に炎症や肝線維化のマーカーが顕著に増加することを確認しました(図1左)。一方で肝臓全体のコレステロール量に変化は見られなかったことから(図1右)、脂肪滴という特定の細胞内構造に局所的に蓄積するコレステロールが、MASHの病態を引き起こす可能性が示唆されました。
さらに、コレステロール合成に利用されるCoenzyme A(コエンザイムA)の合成酵素 Coenzyme A synthase(COASY) をアンチセンスオリゴヌクレオチドで抑制したところ、肝臓脂肪滴中のコレステロール量が減少し、炎症と線維化の進行も抑えられました(図2)。アンチセンスオリゴヌクレオチドとは、特定の遺伝子の働きを抑えるために設計された短い一本鎖の人工DNA。標的となるmRNAと結合することで、その遺伝子からのタンパク質合成を阻害する。病気の原因となるタンパク質の産生を抑える治療手段として、遺伝子治療の一種として注目されている方法です。
同様の効果は、コレステロール合成阻害薬であるベンペド酸やスタチンの投与でも確認されました。一方で、食餌によりコレステロールを投与すると、肝臓脂肪滴中のコレステロール量が上昇し、COASY抑制による保護効果は消失することが明らかとなりました。
本研究により、肝臓脂肪滴に蓄積するコレステロールがMASHの病態進展において重要な役割を果たすことが明らかになりました(図3)。さらに、COASYの発現抑制やコレステロール合成阻害薬(ベンペド酸)の投与によって脂肪滴中のコレステロール量が低下し、病態の進行を抑制できることが示されました。今後、これらの知見を基に、肝臓脂肪滴中のコレステロールを標的とした新たな治療法の開発が期待されます。
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さらなる代謝機能障害関連脂肪肝炎の病態解明と治療開発を目指して参ります。
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